イントラリンクス、新たな調査レポート「白紙にされた買収」を発表

2016年は公表M&Aディールの7%以上が失敗し、金融危機の始まり以来過去最高に

  • 過去24年間、78,565件にのぼるM&A取引をイントラリンクスとカスビジネススクールが共同で分析し、ディールの失敗に関する予測指標を解明

  • 2016年に公表されたM&Aディールは、7%以上が失敗

  • 公開企業を買収ターゲットとするディールの失敗率は、非公開企業の場合に比べ著しく高い

  • 違約金の有無や企業規模もディールの失敗率に影響

【東京、2017年12月13日】本日、イントラリンクス合同会社(東京都千代田区、代表:村岡聡)は、M&Aディールは、過去3年間にわたる増加に続き、2016年は失敗の割合が、それまでの8年間で最も高くなったとする、イントラリンクスとシティ大学ロンドン・カスビジネススクール(City University: Cass)による新しい共同研究結果を発表しました。

昨年公表されたM&Aディールで失敗に終わった取引は全体の7.2%に上り、これは2008年の世界金融危機の始まり以来、世界的なディールの失敗では最も高い割合を示しています。さらにこれは1995年以来の最高水準となり、全体的かつ長期的にみたディールの平均失敗率である5.7%をはるかに上回っています。

これらのデータは、カスビジネススクールM&Aリサーチセンターと、M&Aディールの管理とセキュアなコンテンツコラボレーションソリューションを提供する世界有数のプロバイダーであるイントラリンクスによる共同研究「白紙にされた買収」における調査結果の一部です。

1992年から2016年までに公表された78,565件のM&A取引 の分析に基づき実施されたこの研究では、ディール固有の要因、企業固有の要因、マクロレベルの要因、財務要因、財務以外の要因を30種類にわたり調査し、どれがディールを失敗させる予測指標として統計的に有意であるかを判定しました。また、それらの予測指標が時間の経過とともに変化したか否かについても考察しました。

主な調査結果

  • 公開企業を買収ターゲットにするディールの失敗率は、非公開企業がターゲットの場合に比べ著しく高い:1992年以来、公開企業をターゲットにするディールの長期的な平均失敗率が11.1%であるのに対し、非公開企業をターゲットにするディールの長期的な平均失敗率はわずか3.7%。なお、全体の平均ディール失敗率は5.7%。

  • 公開企業をターゲットにするディールの失敗率は、5つの重要な予測指標によって影響を受ける:「ターゲットの企業の違約金(ブレークアップ・フィー)」、「ターゲット企業と買収企業の規模」、「ディール公表に対するターゲットの初期対応」、「買収企業が用意するディールの財務および法務アドバイザーの数」、「買収企業からターゲット企業の株主へ提示される対価の種類」

  • 公開企業を買収ターゲットにするディールの失敗率を引き下げる要因:「ターゲットの違約金」、「ターゲット企業の方が買収企業に比べ規模が小さいこと」、「ディールの合意の有無」、「買収企業の財務および法務アドバイザーの数」、「現金対価」

  • 非公開企業をターゲットにするディールの失敗率に影響する4つの重要な予測指標:「ターゲット企業と買収企業の相対的な規模」、「買収企業の流動性」、「買収企業からターゲット企業へ提示される対価の種類」、「買収企業の違約金(リバース・ブレークアップ・フィー)」

  • 非公開企業をターゲットにするディールの失敗率を引き下げる要因: 「ターゲット企業の方が買収企業に比べ規模が小さいこと」、「買収企業の流動性」、「現金対価」、「買収企業の違約金」

  • 外的な金融ショックによるディール失敗率の上昇: 「流動性危機」、「資金調達危機」、「金融危機」などの外的な金融ショックは、ディール失敗率を少なくとも一時的に著しく高めるように見える。一方、外部政治ショックによる影響は見られない。

公開企業がターゲットの失敗ディールに見られる5つの重要な予測指標

  1. ターゲット違約金の有無:  公開企業をターゲットにしたディールが失敗に終わる場合、最も強い影響を及ぼす要因は、ターゲット企業の違約金(ブレーク・フィー:ディールが成立しなかった場合にターゲット企業が買収企業に対して支払う手数料)がないことでした。データが示すように、ターゲット公開企業が違約金の支払いに同意する場合、ディールの失敗率が下がる傾向があります。回帰モデルでは、ターゲット違約金がある場合、ディールの平均失敗率は約12%下がりました。一方、本研究によれば、ターゲットが公開企業の場合、買収企業の違約金がディールの失敗に大きな影響を及ぼすことはないことが判明しました。

  2. 規模の問題: 本研究により、ターゲット企業の総売上高を指標としたターゲット企業の絶対規模は、公開企業をターゲットとするディールの失敗に影響を及ぼす要因の第2位であることが判明しました。ターゲット企業の規模の方が大きい買収は、成立する可能性が低くなります。ターゲット企業の絶対規模のほか、ターゲット企業と買収企業の売上高の比率を指標とする、買収企業と比較したターゲット企業の相対規模は、第6位の重要な要因でした。買収企業に比べ売上高ベースでターゲット企業の方が規模が大きいディールも、成立する可能性が低くなります。また、買収企業の絶対規模は第7位の重要な要因でした。ターゲット公開企業に比べ買収企業の方が規模が小さいディールは、成立する可能性が低くなります。

  3. 望まれない注目: ディール公表時のターゲット企業の初期反応が敵対的または一方的買収とみなされることが、ターゲット公開企業のディール失敗率に大きな影響を及ぼす要因の第3位でした。本研究によると、買収企業の入札が敵対的または一方的な初期対応と受け取られた場合、ディールが失敗に終わる確率が著しく高くなることが判明しました。ターゲット企業による敵対的または一方的な初期対応は、買収企業の入札失敗率をそれぞれ32%、41%ずつ上げました。

  4. 有効なアドバイス: ディールの失敗率に影響を及ぼす重大な要因の第4位と第5位は、買収企業が契約したディールの法務および財務に関するアドバイザーの数でした。買収企業が契約した法務および財務アドバイザーの数が増えるほど、ディールが失敗に終わる確率が下がることが判明しました。買収企業に財務アドバイザーが1人増えるとディール失敗率は11.5%下がり、法務アドバイザーが1人増えるとディール失敗率は8.0%下がりました。一方、ターゲット企業が契約したアドバイザーの数とディール失敗率の相関関係は見られませんでした。

  5. キャッシュが全て: ディール失敗率に影響を及ぼす重大な要因の第8位は、買収企業が提示する対価の支払方法でした。ターゲット企業の株主への対価が現金のみで支払われる場合、失敗率が低くなりました。

 
非公開企業がターゲットの失敗ディールに見られる4つの重要な予測指標

  1. 身の丈にあった取引: 本研究により、非公開企業がターゲットの場合、ディールの失敗に最も大きく影響を及ぼす要因は、買収企業と比較したターゲット企業の相対規模(ターゲット企業と買収企業の売上高の比率を指標とする)であることが判明しました。買収企業に比べ売上高ベースでターゲット企業の方が規模が大きいディールは、成立する可能性が低くなりました。

  2. 流動性の確保: ターゲットが非公開企業の場合、ディールの失敗率に大きな影響を及ぼす要因の第2位は、買収企業の流動性(買収企業の流動資産と流動負債の比率を指標とする)でした。買収企業の流動性が高いほど、ディール失敗率は下がります。

  3. 現金支払い: 本研究の結果、ターゲットが非公開企業の場合のディール失敗率に重大な影響を及ぼす要因の第3位は、買収企業が提示する対価の支払方法でした。ターゲット企業の株主への対価が現金のみで支払われる場合、失敗率が低くなりました。

  4. 買収企業の違約金: 非公開企業をターゲットにしたディールが失敗に終わる場合、重大な影響を及ぼす要因の第4位は、買収企業の違約金(リバース・ブレークフィー:ディールが成立しなかった場合に買収企業がターゲット企業に対して支払う手数料)がないことでした。本研究により、非公開企業をターゲットとしたディールでは、買収企業の違約金がある場合にディール失敗率が2%下がることが判明しました。一方、ターゲットが非公開企業の場合、ターゲット違約金がディールの失敗に大きな影響を及ぼすことはないことが判明しました。

 

大惨事や不測の事態がディールの失敗に及ぼす影響

それまで順風満帆だった取引が、売り手側も買い手側も完全に予測不可能な外的要因による事態によって頓挫することがあります。中には、甚大な被害を被った事例もあります。

本研究では、大惨事あるいは想定外の事態と規定される世界規模/地域規模の出来事に着目し、各出来事の3カ月前までに公表済みでも成立には至っていなかったディールの失敗率に与えた影響を調査しました。調査対象とした出来事は、2001年9月の米国同時多発テロ、2008年9月のリーマン・ショック、2016年6月のイギリスのEU離脱是非を問う国民投票です。 

その結果、2008年9月のリーマン・ショックの後、全世界のディール失敗率は急上昇したことが判明しました。季節調整平均が9.6%であるのに対し、リーマン・ショックの3カ月前に公表済みだったディールは19%がその後進展したものの失敗に終わりました。

一方、2001年9月11日の米国同時多発テロと2016年6月23日のイギリスのEU離脱の是非を問う国民投票では、季節調整値と比較して、その後の失敗率に上昇は見られませんでした。

 

地域、国、業種別のディール失敗率

公表された買収の長期平均失敗率は、アジア太平洋地域が7.1%であるのに対し、中南米ではわずか4.0%に過ぎないことが分かります。北米で公表ディールが失敗に終わった割合は6.4%ですが、それに比べヨーロッパ/中東/アフリカのディール失敗率はわずか4.2%に過ぎません。買収企業とターゲット企業の地域の組み合わせで見ても、一部で平均より著しく高いディール失敗率が見られます。例えば、中南米の買収企業がアジア太平洋の企業をターゲットにした買収(失敗率18.6%)、北米の企業をターゲットにした買収(失敗率12.7%)は特に顕著です。

国別で見ると、ディール失敗率が最も高いのは中国、オーストラリア、シンガポールの順で、最も低いのはロシア、日本、フランスの順です。

世界の業種別で見ると、原材料、不動産、エネルギー&電力のディール失敗率が最も高く、最も低いのは消費者向け製品、製造業、医療です。

 

研究に関するコメント

イントラリンクスのストラテジー&プロダクトマーケティング担当バイスプレジデントのフィリップ・ウィチェロは本研究結果について次のようにコメントしています。「ディールが失敗に終わると、買収する側にもされる側にもずっしりと重いダメージがあり、評判を失うという代償を負います。最も顕著な予測指標を特定したこの研究は、ディールを成功させるチャンスを高めるため、取引において両当事者の助けとなるでしょう」

カスビジネススクールM&Aリサーチセンターのディレクター、スコット・モーラー教授は本研究に関して次のようにコメントしています。「本テーマの調査研究としては最大規模を誇り、公開および非公開企業のM&Aをこれほど大規模に調査した例は他にありません。ディールの失敗を引き起こす重大な原因について、初めて全体論的に解説しています」

 

レポートの入手方法

本研究結果の詳細は、完全版レポートをこちら からダウンロードしてご覧ください。

カスビジネススクールについて

カスビジネススクール(City University: Cass)は、ワールドクラスの知識、イノベーティブな教育、活発なコミュニティを特徴とする、シティ大学ロンドンが誇る世界有数のビジネススクールです。カスビジネススクールは世界最高峰の金融街の中心に位置し、シティ・オブ・ロンドンと起業家が集うテック・シティに強力なパイプを有しています。AACSB(Association to Advance Collegiate Schools of Business)、AMBA(Association of MBAs)、EQUIS(European Quality Improvement System)からトリプルクラウン認定を受けたグローバルエリート・ビジネススクールに数えられています。詳しくは、ウェブサイト www.cass.city.ac.uk をご覧になるか、Twitterで@cassbusiness をフォローしてください。

 

イントラリンクスについて

イントラリンクスは、世界中で高額の金融取引や提携交渉、戦略的イニシアティブを支援しています。イントラリンクスのプラットフォーム上では34兆ドル以上相当の金融取引が行われており、運用の簡素化、リスク軽減、ユーザーエクスペリエンスの改善、可視化の向上、ディール参加者への緊密なエンゲージメントを通じてディール・ライフサイクル全体をサポートしています。これまでの20年の歴史を通じて、Global Fortune 1000企業の99%以上から信頼を勝ち取っています。イントラリンクスについての詳細は、ウェブサイト(www.intralinks.com/jp)をご覧ください。

 

商標および著作権について

「Intralinks」およびIntralinksロゴマークは、Intralinks, Inc.の登録商標です。(C) 2017 Intralinks, Inc.

 

[ご参考資料]本調査の分析手法について

本研究のサンプルは、1992年から2016年までに公表された全世界のM&A取引件数のうち、以下の条件を満たす案件から抽出されています。

  • 取引にターゲット企業の支配権移転が関与すること(公表前の買収企業の支配権の比率は50%未満で、ターゲット企業の支配権取得50%以上を目指す)
  • 取引額が5,000万米ドル以上、または公表前の買収企業の前会計年度の総売上が5,000万米ドル以上、または公表前のターゲット企業の前会計年度の総売上が5,000万米ドル以上であること
  • トムソン・ロイター社の判定による取引状態が買収完了または撤回であること(つまり、保留中のディールは考慮されていない)

上記の条件を元に、78,565件の公表取引をサンプルとし、35,049社の買収企業(公開企業および非公開企業を含む)と73,268社のターゲット企業(公開企業および非公開企業を含む)を調査しました。本テーマの調査研究としては最大規模を誇り、公開および非公開企業のM&Aをこれほど大規模に調査した例は他にありません。

本研究の取引および企業データは、トムソン・ロイター社が提供するThomson OneおよびDatastreamデータベースから入手しました。

どの要因がディール失敗の統計学的に有意な予測指標であるか判定するため、すべての要因を独立変数とした回帰モデルを作成しました。回帰モデルの従属変数はダミー変数で、取引が失敗に終わる場合には1、それ以外の場合は0となります。

回帰モデルを使用することで、ディール失敗率に影響を及ぼす予測要因の相対的重要度(重み付け)を特定しました。本レポートでは、この重み付けについても言及します。

調査完了後、全世界の公開企業および非公開企業、プライベートエクイティ会社、法務アドバイザリー会社から40名のM&Aプロフェッショナルを対象にインタビューを行い、それぞれの知見を語ってもらい、本レポートの調査結果の裏付けを取りました。