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コロナウイルスのアウトブレイクは、バイオテクノロジーおよび製薬業界のM&Aディールを促進するか?

新型コロナウィルス(COVID-19)の拡散に対する懸念が世界中で高まる今、多くの人が注視しているのが世界経済への影響です。

Coronavirus_APAC_Dealmaking

今月初めに実施された緊急の

米FRB連邦準備理事会による政策金利0.5%引き下げに続き、世界的な景気減速に直面するマレーシア、オーストラリア、香港の中央銀行も金利引き下げを実施、中国も近い将来にそれに追随すると思われます。一部のオブザーバーは、こうした努力は不確実性に対処するための単なる応急処置として機能するだけで、現実的な救済策は衛生危機に対する各政府の対応に責任があると指摘しています。これらのオブザーバーの一部でもある合併・買収(M&A)ディールメーカーは、現在の状況や世界のリーダーによるこの問題の対処法については管理する力も権限もありません。ディールの交渉およびディールメーカーのパイプラインの調査に関しては、新型コロナウイルスの実体と、その封じ込め、および治療方法が明らかになるまで様子を見るディールメーカーもいると思われます。しかしながら、一部のディールメーカーはこの状況に機会を見出す可能性もあります。

昨年の世界のM&Aをリードした業種は、バイオテクノロジー、医薬品、医療サービス、医療機器などの副次産業を含む幅広い医療分野の企業グループでした。各国政府と国民が現在ワクチンの開発を待ち望んでいることから、ギリアド、GSK、サノフィ、武田をはじめとする世界の多くの大手バイオ医薬品企業が早急に治療法を見出そうと競っています。そのため、医療分野のディールメーカーは時間に追われる状況で、バイオ医薬品分野のM&Aにおいてもう1つの合併ブームが来るかどうか自問自答することができるでしょう。

リフィニティブ社のデータによると、世界の医療分野のM&Aは2019年末までにすでに活況を示しており、同年の取引額は過去最高の5,350億米ドルに達しました。ディール総額は前年の4,235億米ドルを上回りましたが、ディール件数は3,621件と、最高記録となった2018年の3,975件と2番目の2017年の3,687件からは減少しました。医療業界は、遺伝子治療、腫瘍学、医薬品などの分野において世界中で堅調な活動が続いていることだけでなく、(おそらく最も顕著なのは)複数の大手バイオ医薬品企業が大型合併したことでも後押しされています。

ブリストル・マイヤーズ スクイブ(Bristol Myers-Squibb)によるセルジーン(Celgene Corporation)の934億米ドルの歴史的な買収は、同業界全体のプレーヤーが経験するプレッシャーの高まりを例示しています。この買収により、がんや希少疾患の治療法の開発と商業化に専念する世界有数のバイオ医薬品企業が誕生しました。それは医療分野でこれまでに成立した取引の中でも最高額を記録しました。さらに、2019年にはアッヴィ(AbbVie)による839億米ドルのアラガン(Allergan)買収が規模として第2位の医療分野ディールとして記録されました。

APACは次に注目すべき地域か?

新型コロナウイルスによって注目されているのは、世界中の、特にアジア太平洋地域の医療およびバイオテクノロジー分野の状況です。コロナウイルスが中国武漢の震源地から広がるにつれて、各地方自治体は増え続ける患者のための病床や十分な医療用品を必死に集めて、医療従事者も動員、不安にかられる市民も同様の思いを経験しました。中国政府はこの急増する需要に応えるために、わずか2週間で2つの新しい病院を何とか建設しました。そして、中国全土でさらに多くの医療従事者を募りました。

注目すべき最重要点は、新型コロナウイルスのワクチンと治療法の開発競争がすでに始まっており、世界で最も裕福な人々から慈善寄付が寄せられていることです。アリババグループ(Alibaba Group)の共同設立者であるジャック・マー氏は、それぞれの慈善基金を通じて、香港の大富豪、リ・カシン氏とともに中国国内の取り組みに1,000万米ドル以上を寄付しました。テンセント(Tencent)や美団点評(Meituan Dianping)などの企業基盤も中国政府の取り組みに貢献しています。米国では、ビル&メリンダ・ゲイツ財団が治療法の研究に1億米ドルを寄付しています。しかし、これらの取り組みにもかかわらず、専門家はワクチンの開発までに1年以上はかからないとしても、最低数か月は要すると述べています。

いくつかの背景として、2019年にAPACは1,117件の医療ディールを成立させ、同地域の取引総額は477億米ドルになりました。これは、2018年の最高記録である1,166件のディールと総額617億米ドルの取引額からは減少しましたが、それでも同地域の件数では2番目、取引額では3番目に高い数値でした。日本を除くアジア太平洋地域の最大ディールは、米国のバイオテクノロジー企業アムジェン(Amgen)が中国のがん免疫療法企業BeiGeneの20.5%の株式を28億米ドルで取得したことでした。

日本はこの地域の最大ディールに貢献し、三菱ケミカルホールディングスが、未所有だった田辺三菱製薬の残りの株式を45億米ドルで取得しました。後者は、自己免疫疾患と糖尿病のワクチンの製薬メーカーです。

2020年はこれまでに、アジア太平洋地域で41件の医療分野のディールと合計27億米ドルの公開価格が確認されています。当然のことながら、世界的な不確実性がM&Aディールメーカーのパイプラインに打撃を与えているため、この数字は、前年同期比のディール件数55件よりも大幅に少なく、取引額も100億米ドル弱となっています。しかしながら、新型コロナウィルス(COVID-19)が拡散し続け世界的にパンデミックとなった場合、治療法の発見と将来のアウトブレイク防止の緊急性により、医療分野への投資が促進される可能性があります。同様に、合併による企業の統合も早期の開発を実現するために必要となり得るでしょう。