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COVID-19(新型コロナウイルス感染症)の時代、石油・ガス業界のM&Aは今後どうなるか?

石油・ガス業界のディールメーカーは、原油価格の急落により破産手続きと企業再編の多発を懸念

石油・ガスのM&A COVID-19

最近の原油価格の急落により、世界中の消費者心理の変化と企業の環境、社会、ガバナンス(ESG)の取り組みが増し、すでにストレスに曝されている業界に限界が近づいているのではないかという懸念が拡がっています。

現在、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)が世界経済に大混乱をもたらしていることにより、石油・ガス業界の未来は前例のない厳しい見通しであると予測されています。世界全体で実施されている屋内退避令(shelter-in-place)やロックダウンにより、国と国の間の移動だけでなく家庭と職場間の移動も大幅に減少し、人々の通常の移動パターンでは石油とガスの十分な需要が見込めない状態です。

石油の供給過剰と需要の減少により、3月30日のWTI原油価格は1バレル当たり20.09米ドルに急落しました。ちなみに約1年前の2019年3月29日の価格は1バレル当たり60.14米ドル。2020年1-3月期も業界では過去最悪の四半期業績を記録し、価格は3月だけで半分に下落しました。また、サウジアラビアとロシア間の取引で想定された進展に対するトランプ大統領のツイッター発言によって一時的な反発が見られたにもかかわらず、価格は依然として損益分岐点に達する見込みがありません。

合併および買収(M&A)に関しては、Pitchbookのデータによると、今年の1-3月期に投資された資金は、73件の石油およびガス分野の取引から計上された総額316億米ドルでした。これは、2019年の同時期に投資された80件の取引の442億米ドルから減少し、価格にして40%下落したことになります。

市場の調整が実施されているため、需要が急激に低下し、現在すでに貯蔵スペースが不足していることから、一部の石油会社は破綻する可能性もあります。そのため今後、強烈な痛みに最も長く耐えて、最も状況に適応できる石油会社として存続するための競争が始まります。

新型コロナウイルスが出現する前に、エネルギー業界の専門家たちは、石油・ガス産業の将来の見通しを立てるために、その可能性について調査を始めていました。気候変動が引き起こす破滅的状況について世界中の科学者が警告する報告書と、それを裏付ける近年多発している記録的な気温上昇、森林火災、ハリケーンなどの証拠から、再生可能エネルギーと持続可能な企業を目指す計画を始めていた業界大手の数社は、石油という事業を超えて、環境についても検討し始めていたところでした。

すでに石油業界の一部の大手企業は持続可能な企業イメージを高める方向で移行を開始し、ヨーロッパにおいて複数のブランド再生を図っています。その中には、ディープウォーター・ホライズンの原油流出事故(および数十億ドル規模の罰金)の後、何度か社名を変更し、BPとして知られるようになった旧British Petroleum社も含まれます。英国で石油のみならずエネルギーにおける大手企業である同社は2050年までに「ネット・ゼロ」を目指すと宣言しています。また2年前には北海においてノルウェーのスタトイル(Statoil)が社名をエクイノール(Equinor)へと変更しています

ごく最近のロシアとサウジアラビア間の価格戦争と市場シェアをめぐる戦いの勃発により、石油業界のボラティリティが緩和するようなことは一切ありませんでした。新型コロナウイルスのパンデミックのさなか生産削減の合意に至らなかった両国は、代わりに生産を拡大し始め、世界的に原油価格は急落したのです。

これらはすべてCOVID-19が蔓延している最中に起こったことであり、その時すでに世界経済は停滞していました。この新たな感染症がさまざまな地域に拡大するにつれ、当然、日常生活において不確実性や不安感が高まり、ボラティリティの増大によって原油価格はこの20年間で最低レベルを記録しました。また、航空会社への救済策などの措置も日々検討されていますが、こうした状況は、気候変動に対する意識が高まる時代にますます評価が下がっている石油・ガス会社にとって何を意味するのでしょうか?破産手続きや企業再編の波が差し迫っているのでしょうか?

米国のシェール業界にとってこの危機的状況は特に深刻です。金融危機後の世界のエネルギー市場における米国優勢を維持するために貢献したシェールセクターは、現在、規模的にも存続を維持する態勢ですらなく、いつ起きてもおかしくない差し迫った市場崩壊の危機に曝されています。さらに、新型コロナウイルスによる深刻な価格の下落は、ロシアがサウジアラビアとの価格戦争に関与している最中、同時に米国のシェール燃料生産者を圧迫したことから悪化しました。

天然ガスに関しては、近年の暖冬の影響で暖房の使用率が減少したことから需要の減少と供給過剰が相まって、石油セクターと同様に脆弱になりました。関連する米国の石油生産は、間もなく生産が停止されると供給量が減少し、その結果、価格が多少上昇する可能性がありますが、結局は企業(現在閉鎖されている多くの職場)やロックダウン状態にある商用ユーザーによる需要の極端な減少により、天然ガスの価格も低下しています。

当然ながら、破産手続きや企業再編は業界全体で予想されています。二つの主要産油国間の世界市場シェアをめぐる価格戦争の間、石油・ガス会社が破産をまぬがれているとしても、多くの企業は、日々感染地域を拡大し続けるCOVID-19の影響による需要の枯渇の結果として、破産や再編が予想されます。これら二つの要因が合わさると、多くの企業にとっては対応しきれないことが明らかとなるでしょう。

数日前、米国のシェールオイル大手、ホワイティング・ペトローリアム(Whiting Petroleum)は、同業界で初めて連邦倒産法第11章 (Chapter 11)の適用を申請し、ニューヨーク証券取引所での同社の株式は取引停止となっています。デンバーを拠点とするホワイティング社は、再編を必要とする理由として、ロシアとサウジアラビアの価格戦争と、新型コロナウイルスの影響を挙げていました。また、そうした申請で同社に続く企業が出てくる可能性は高く、ロイター通信は、数週間前にオクラホマシティに本社を置くチェサピーク・エナジー(Chesapeake Energy Corp.)が 再編アドバイザーに連絡を取ったと伝えています。少額の手元資金を多用してきたその他多くの企業は現在、毎日を生き延びるためだけのコスト増大に直面しています。

破産手続きや企業再編の発生を予測することに加えて、一部の専門家は石油・ガス業界の今後のM&Aについて考え始めています。多くの資産の潜在的価値は、買収を検討している企業にとって間違いなく魅力的ですが、一部のターゲットはそのような絶望的な市場での売却を検討していない可能性があります。選択の余地がなく、深刻な債務を負った会社は破産裁判所に向かい、資産へのさらなる損害を食い止めようとするかもしれません。さらに、差し迫った市場ショックは別として、気候変動と長期的に見た消費者習慣の変化への懸念から生じる迫り来る実存的な脅威もあります。いずれにせよ、石油とガスの需要が10年以内にピークに達すると予想される場合、そのことにどのような価値があるのか、この時点で合理的に説明できる人がいるでしょうか?