ジェンダー・ダイバーシティとM&Aの成果

Dealcastバナー

今回のDealcastのエピソードでは、CEOと取締役会レベルのジェンダー・ダイバーシティがM&A(合併・買収)の結果にどのように影響するかを見ていきます。司会者のジュリー=アンナ・ニーダムが、ベイズビジネススクールの上級研究員兼コースディレクターであるヴァレリア・ヴィトコヴァー博士をゲストに迎えています。Dealcastは、MergermarketとSS&Cイントラリンクスが提供しています。

このエピソードでは、以下について学んでいきます。

  • バイサイドの女性CEOやジェンダーが多様な取締役会が、男性のみのリーダーシップによる買収者よりも業績が優れている理由
  • パンデミックの最中に女性CEOが始めたM&Aディールが、平均して長期的に優れた結果をもたらした仕組み 
  • ジェンダー・バランスのとれた取締役会が選択したディール構造とターゲットにおける戦略的差異
  • 女性CEOが市場でより優れた認識を獲得するためにできること 

ジュリー=アンナ・ニーダム:MergermarketとSS&Cイントラリンクスが毎週提供しているM&Aポッドキャスト、Dealcastへようこそ。10年間M&Aを取材してきたジャーナリストのジュリー=アンナ・ニーダムです。今回のエピソードでは、CEOと取締役会レベルのジェンダーの多様性がM&Aの結果にどのように影響するかを見ていきます。ベイズビジネススクールの上級研究員でコースディレクターのヴァレリア・ヴィトコヴァー博士にお話を伺います。

こんにちは、ヴァレリア。今日はご参加いただき、ありがとうございます。

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:こんにちは。お招きいただきありがとうございます。

ジュリー=アンナ・ニーダム:あなたが行っている研究の概要を教えてください。

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:わかりました。この研究はSS&Cイントラリンクスと共同で行われたものです。私たちが確認したかったのは、取締役会レベルでの女性CEOとジェンダーの多様性が、企業のM&A戦略にどのような影響を与え、その後の買収者のパフォーマンスにどのような影響を与えているかということです。

私たちはこの点を解明しようとしています。過去5年間に2つの主要なレポートを作成しましたが、これらは非常に大規模な国際企業をサンプルとしています。たとえば、最新のレポートでは、2010年初頭から2021年末の間に発表されたディールを調べています。ここでは、最小値が5000万の大規模で重要な取引を調べ、サンプルは11,000件以上のM&A取引で構成されています。

これによってデータの堅牢性と、私たちが突き止めた結論への信頼性が高まると考えています。私たちが確認できたことを具体的に言えば、企業の長期的な株価パフォーマンス、長期的なオペレーションパフォーマンス、会計指標です。また、短期的な発表に対する反応も確認しています。つまり、これらの主要なM&Aディールの発表に対する市場の反応です。

ジュリー=アンナ・ニーダム:素晴らしいですね。本当に総合的な研究のようですね。ではなぜ、企業の取締役会やCEOレベルで上級管理職に女性が占める割合が低いことに対して厳しい目が向けられるようになったのでしょうか?なぜ今なのでしょうか?

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:確かにそうですね。とても良い質問だと思います。つまり、一般的に見て、ここ数年で急速に取りざたされているESGについて検討する議題が発生しているということです。考えてみれば、ジェンダーの多様性は、このESG関連の議題に含まれる重要な問題の1つです。

そしてこれまでで確認できたことは、ジェンダーだけでなく、民族や文化の多様性も多くの企業にとってますます重要な検討事項になってきているということです。具体的には、M&Aの領域を考えると、多様性と多様性の受け入れに関する課題は、ディールプロセスのすべての段階でより重要になってきています。

潜在的なターゲットのESG実績を調査するデューデリジェンス段階では特にそうです。また、多様性やESG全般に関連するこれらの目標の達成に役立つかという観点から、さまざまなビジネスを自社内で統合することの影響についても確認する必要があります。

そして、このような状況になっている主な理由の1つは、より多様性のあるリーダーシップチームが存在していることに明らかな利点があることを示す証拠があるからだと思います。学術研究、レポート、これまで私たちが公表したレポートがありますが、それらはより多様なシニアリーダーシップチームが存在している企業の方が業績が優れているという明確なメッセージを伝えています。ステークホルダーや株主に対してより高い価値を生み出すことができているわけです。

ジュリー=アンナ・ニーダム:なるほど。それについては後でもう少し詳しく伺いたいと思います。ところで、市場が女性CEOによる買収をあまり支持していないことを示す証拠について見ていきたいと思います。またその過程に投資家のバイアスが存在しているのでしょうか?

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:取締役会レベルに女性CEOがいることとジェンダーの多様性が、著しく優れた長期的なパフォーマンスに関連しているということが私たちの分析で明らかになっています。これは統計的に有意なものです。また、これらのビジネスの同業他社と比較しても有意です。私たちが発見した業績と多様性の間に強い関連性があることを考えると、例えば女性CEOが発表したディールに対する投資家の反応が、男性CEOが開始したディールに対する反応ほど肯定的ではないことは少し驚きだと言えます。

そのため、これらの公表に対する長期的な反応と初期反応の間に見られたこの食い違いの中で、何らかの投資家バイアスが存在していると考えるようになったのです。意識的なものなのか、無意識的なものなのかを判断することは難しいですが。そして、この問題がさらに驚くべきものである理由は、私たちの分析からでは、これらの買収が完了した後の企業パフォーマンスの低下によって、こうした多くの否定的な反応を説明できなかったということです。

おそらく、女性CEOやジェンダーが多様な取締役会がM&Aの選択肢を狭めたり、粗悪な戦略を採用しているといったような理由でこの現象を説明することはできないでしょう。なぜなら、実際のところ、これらのよりジェンダーのバランスがとれたリーダーシップチームが採用することの多い戦略タイプは、成功に関連する特性があると思われるからです。

例えば、ジェンダーバランスのとれた取締役会が探し求め、最終的に買収するターゲットのタイプは、バリュエーションがより高く、収益性がより高い傾向があります。流動性が高く、レバレッジが低い傾向もあります。これらの財務特性を総合すると、こうした企業がより成功しやすく、強靭であることが分かります。強い企業が買収者の事業ポートフォリオに組み込まれれば、より優れた業績につながる可能性が高くなります。

また、M&Aディールにおける取引構造についても、体系的な違いがあることが分かりました。例えばよりジェンダーバランスが取れている取締役会における女性CEOが求めるアドバイス、外部からのアドバイスやサポートの量です。ジェンダーバランスが取れている取締役会に女性のCEOがいると外部からのアドバイスを求める傾向があることがわかりました。つまり財務顧問や法律顧問の数も多くなるということです。

そのため、これらの特徴はすべて、成功する可能性が高いことと強い関連性があります。そのため、最初の反応とディールの仕組みやパフォーマンスとの食い違いを確認すれば、ある程度のバイアスがもしかしたら存在するのではないかと考えさせられます。

ジュリー=アンナ・ニーダム:ここまででかなり多くのことについてお話いただきました。しかし、なぜ女性が代表を務める取締役会は、短期的にも長期的にも、男性だけの取締役会をアウトパフォームする可能性が高いのでしょうか?そしてM&A、もっと広く言えば、取締役会に優れた女性の代表者がいる企業の両方について言えることのようですが。

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:私たちは、女性CEOと男性CEOで構成されているディールの種類と、よりジェンダーバランスが取れている取締役会や男性が支配的な取締役会で構成されるディールの種類には、体系的な違いがあることを確認しました。つまり、これらのより多様なリーダーシップチームは、さまざまな種類のターゲットを求めているということです。ですから、財務的な特徴を持つこうしたターゲットは、高い成長の見込みがあるビジネスとの関連性が非常に高いのです。

したがって、こうした企業のバリュエーションは高くなるはずです。流動性も高まるでしょう。レバレッジは低い水準となるでしょう。より収益性の高い企業となるはずです。このような企業はジェンダーが多様な企業が求めるタイプのターゲットなのです。また、こうした企業がディールを構築する方法は、外部からのアドバイスをより多く求める、ある意味で、よりリスクに慎重なアプローチになるでしょう。

女性CEOやジェンダーバランスが取れている取締役会は、より多くのファイナンシャルアドバイザーを使う傾向があることが分かっています。法律アドバイザーをより多く使う傾向もあります。また、買収では現金で支払う可能性が高いわけですが、それは一般的に、企業財務理論からするとそのディールに関連する利益に確信があるときだけであることを示唆しているわけです。生み出されるシナジーについて十分な自信がある場合にのみ、支払い方法として現金を使用するのです。ですから、企業が現金を使うときには、市場に強力なシグナルを送っていることになります。

また、ターゲットの種類にも違いが見られました。ですから、既にお伝えしたような財務上の特性を別にすれば、こうした企業は非公開企業である傾向があります。ジェンダーバランスが取れた取締役会を持つ企業は、ターゲット非公開企業を買収しようとする可能性が高いです。繰り返しになりますが、企業財務理論によると、ターゲット非公開企業を買収しようとすると、ある程度のディスカウントを受ける可能性が高いという証拠があります。これは、ターゲット企業自体に対して、その無形資産を評価することが難しいためです。そのため、購入しようとしている会社にとってより良い価格を得ることができます。

また、パンデミックの間に見られた非常に興味深いことは、よりジェンダーバランスが取れている取締役会は、ターゲットと買収企業両方の違約金を支払う可能性が高いということです。つまり、これらの違約金は保険契約のようなもので、潜在的に失敗する取引にまつわるリスクとデメリットの一部を軽減するのに役立ちます。

ですから、ターゲットの種類、支払い方法、そしてディールを構造化する方法について外部のアドバイスを求めることなどをすべて考慮に入れると、こうした違いすべてによって、よりジェンダーバランスが取れている取締役会であれば、実に多様な観点からM&Aを戦略的なステップとして検討する可能性が高いという構図が浮き彫りになります。そしてそうした構図はより成功しやすく、より大きな価値を生み出すという点で役立つでしょう。

ジュリー=アンナ・ニーダム:M&Aに限らない視点で非常にざっくりと見てみれば、多様性が企業の利益に貢献していることを示す証拠にはどのようなものがありますか?

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:より広範に見ていけば、一般に企業は多様性を高めています。これは実際には、リーダーレベルだけでなく、組織内のどのレベルでもそうなっていることを確認しています。このような企業は研究開発に多額の投資をする可能性が高いこともわかっています。イノベーションに力を注ぐ傾向があると言えます。また、企業が組織として成長することやM&Aを通じて企業を成長させることにも焦点を当てる可能性も極めて高いです。

そのため、M&Aをいったん置いておくとしても、企業全体に目を向けると体系的な違いが見られます。つまり、ある意味では、より新しい考えを取り入れる傾向があると思います。これが研究開発であり、私たちが目にしているイノベーションです。それは単に、これらの企業が新製品、新サービス、新戦略を採用することに対してより開かれた姿勢を取っているだけだという結論につながります。

ジュリー=アンナ・ニーダム:素晴らしいですね。ありがとうございます。では、市場や幅広い利害関係者から女性CEOがさらに認知を高め、評価されるようになるには、何ができるのでしょうか?

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:それはとても良い質問だと思います。私が強調したいのは、非常に重要で個人的にも非常に印象的だったことですが、公開されている統計のいくつかを見てみると、これらの統計は過去5年ほどの状況ですが、企業の取締役会に女性のリーダーが占める割合が増加しています。

しかし、この役割が実際に執行役員と執行役員以外に分かれていることを見ると、女性に割り当てられている役職のほとんどが執行役員以外であることがわかります。私が確認した最新のデータによると、世界的な企業をサンプルに取ったものですが、役員レベルの役職に女性が占める割合はわずか7%となっています。

ジュリー=アンナ・ニーダム:衝撃を受けるほど低い数字のようですが。

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:おっしゃる通りです。まさにその通りです。なぜこれが重要な意味を持つのでしょうか?その理由は、役員であるということは、実際に権力があり、重要なリソースに対して指揮命令するということだからです。そして、おそらくCEOになれる役職でもあるということです。門番のような役職だということです。論理的に言えば、私たちが焦点を当てるべき重要な分野の1つは、そうした幹部としての役職を持つ女性の数を増やすよう取り組むことです。

つまり、ESGの目標に向かって見せかけの努力をするのではなく、実際に役立つポリシーを実行するということです。それでは、企業が実際にこの取り組みを実現するにはどうすればよいのでしょうか?1つには意識を高めることです。たとえば、組織にいる女性の体験に関するデータを共有することができます。啓蒙活動を行うスピーカーを招くこともできるでしょう。従業員に自分の体験やアイデアを共有するよう促してくれるでしょう。

質問することも必要です。では、どのようにして意識を高め、行動に移すのでしょうか。ある意味では、意識を高めることについては既に議論しています。ここで重要な領域は、例えば適切なトレーニングを提供することだと思うのです。もう少し統計をお見せしましょう。

多様性に関するトレーニングを受けている従業員の割合を見れば、35%以下、あるいは約35%だということが分かります。これは米国のデータに基づいています。多様性に関して言えば、米国はおそらく先進国市場の1つだと思います。ですから、この分野でより大胆な措置を講じる余地があると思います。この意識とトレーニングに関連して、その大胆な措置は継続的なプロセスとするべきです。

私たちが変えようとしていることは根深い偏見や習慣であることを考えれば、一度で何とかなるはずはありません。行動という観点から変化を起こすには、信条やアイデアを繰り返し形を変え、メッセージを送り続ける必要があります。多様性は総じて素晴らしいことですし、良い結果につながるというメッセージを伝えるわけです。

ジュリー=アンナ・ニーダム:この内容なら一日中話すことができますね。それも良いかもしれません。しかし、終了の時刻が迫っているため、次で最後の質問とさせていただきます。企業、そして銀行、弁護士、プライベートエクイティのグループの観点から、どの業界が最も批難されているのでしょうか?

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:繰り返しになりますが、このトピックに関する最新の統計を確認すると、工業、不動産、技術、エネルギーなどの業種では、女性リーダーの割合が最も低い傾向にあることがわかります。その一方で、メディアや小売業などの業種が優れた成績を収めています。

ここには、いくつかの明確な違いがあります。ここで重要な問題は、この違いがこれらのビジネスの性質によるものかどうかということです。そしておそらく歴史的に、これらの女性リーダーの割合がとりわけ少ない産業の一部が男性優位であると認識されてきたという事実です。ある意味では、それは永遠に続いていく現象のようなものです。

ですから、これに対処する1つの方法として、男性優位であるこれらの産業についての認識を確実に変え、これらの産業は必ずしも男性従業員だけのものである必要はないということを社会に認識させることだと思います。

ジュリー=アンナ・ニーダム:素晴らしいですね。ヴァレリアさん、ありがとうございました。

ヴァレリア・ヴィトコヴァー:ありがとうございました。

ジュリー=アンナ・ニーダム:ベイズビジネススクールの上級研究員兼コースディレクターであるヴァレリア・ヴィトコヴァ博士にお話を伺いました。今週のMergermarketとSS&CイントラリンクスによるDealcastのエピソードをお聞きいただきありがとうございます。ポッドキャストの評価、レビュー、フォローをお願いします。Appleポッドキャスト、Spotify、Mergermarketのニュースアラートで確認することもできます。詳しくは、ショーノートをご覧ください。それでは来週のエピソードでお会いしましょう。

『ジェンダーの多様性とディールメイキング2022』 はこちらからダウンロードできます。